満期保有目的の有価証券が決算をむかえた時
決算をむかえたときの満期保有目的有価証券は、満期まで長期にわたって運用することが目的なので、原則として売買目的有価証券のときのように時価で評価替えをしません。★1
しかし、額面金額と異なる価額で取得した満期保有目的債券で、額面金額と取得価額との差額部分が金利を調整するために生じたものである(金利調整差額)と認められるときは償却原価法★2で評価して帳簿価額を調整します。
なんかややこしい文章が出てきて何だこれ?という感じですが、考え方としては満期保有目的で購入した公社債は基本的に売却はしませんよね。例えば額面100,000円の社債を95,000円で購入したとして、社債の時価が110,000円とかに多少上がったり、また下がったりしたとしても、満期になって受取る金額は利息分と額面金額の(100,000+利息)円です。なので満期に額面でお金を受け取るという前提がある限り、満期保有目的有価証券を時価で評価をすることはあまり意味がないんですね。というわけで満期保有目的有価証券は原則として時価で評価替えをしないということになります。
もう一つの金利を調整する云々の償却原価法についてですが、具体的にいうと例えば額面100,000円の社債を95,000円で購入した場合、この差額部分の5,000円のことを指します。
ところでなぜ満期保有目的有価証券は満期償還時に額面100,000円を受け取ることが決まっているにも関わらず、95,000円という値段がついていて5,000円の差ができてしまっていると思いますか?安く購入できてラッキーだと思います?この5,000円にはどういった性質があるのでしょうか?
差額が生じると考えられる原因の1つは社債発行会社の財務状況の悪化です。社債発行会社の財務状況の悪化により社債の額面金額の回収ができなくなる可能性が出てきて、社債の値段が下がってしまい、差額が出るケースです。★3
もう1つは金利の調整が考えられます。企業は社債を広く購入してもらうために政策的な面からあえて額面金額より安くなるように割引きをして発行をしたりします。★4こういったことから取得価額と額面金額とのあいだに差額がでてきたりします。
ではこのときの割引いた分の差額の性質はいったいなんなのか、企業が多めに支払って負担をしてくれているのかというと、実はそんなことはなく、企業は発行金額との調整をはかるために約定利息のほうを低く設定して、発行価格を調整をしているんです。★5
このことから簿記では金利の調整が原因で出た場合の差額(5,000円)は、もともとは利息から来たものだと考えられ、「金利調整差額になった差額はもとは利息なんだから実態にあうように償却原価法で評価替えをしなさい」というようにルールが決められていて、簿記ではそのように処理をしないといけないんですね。
償却原価法
償却原価法とは満期保有目的の債券を額面金額より低い価額、または高い価額で取得したとき、その額面金額と取得原価の差額が金利を調整するためと認められる場合において、その金利の調整差額を取得日から満期日までの間、決算日ごとに毎期一定の方法で償却額を算出し、その金額を満期保有目的債券の帳簿価額に加算減算する方法です。この時の相手勘定科目は有価証券利息で処理をします。
償却原価法には定額法と利息法★6がありますが、2級で出題されるのは定額法になります。
定額法は簡単です、定額法は3級の減価償却の時に学習しました、あれと同じイメージです。
また、上のほうでお話した通りただ差額が出ただけではダメなんですね、「金利を調整するためと認められる」場合じゃないと償却原価法をしてはいけないんです。細かいですね。
満期保有目的債券の償却原価法(定額法)
- 当期の調整額=(額面金額-取得価額)×
- 当期の経過期間
- 取得日から満期日までの期間
とりあえず定額法の式は書きましたが覚える必要ないです。減価償却の定額法でやったときみたいに、公社債の額面金額と取得価額の差額を全ての期間で割って、当期に使った期間をかければ償却額が出ます。それくらいの理解でいいと思います。そして求まった償却額を満期保有目的債券勘定に加算または減算すればいいんですね。
減価償却の定額法は償却されて最終的に残存価額になりますが、満期保有目的債券の償却原価法の定額法は、最終的に額面金額と同じになっていくことになります。
- 例題
×2年3月31日 A株式会社は決算をむかえたので、当期首に満期保有目的で購入した北海道株式会社社債(額面金額20,000円、取得原価18,800円、満期日×6年3月31日)を償却原価法(定額法)により決算整理仕訳を行う。なお、額面金額と取得原価との差額は金利調整差額と認められる。
- (借方)
- 満期保有目的債券
- 240
- (貸方)
- 有価証券利息
- 240
問題を整理します。社債の購入日は当期首とあるので×1年3月31日、満期日は×6年3月31日とあるので取得日から満期日までの期間は5年または60ヶ月、当期の償却期間は12ヶ月、満期保有目的とあるので勘定科目は満期保有目的債券勘定、差額は20,000-18,800=1,200円、金利調整差額と認められるので定額法で処理をする、と読み取ることができます。
- 取得日
×1年
3月31日 - 決算日
×2年
3月31日 - ×3年
3月31日 - ×4年
3月31日 - ×5年
3月31日 - 満期日
×6年
3月31日
240 | ||||||||||
240 | 960 | |||||||||
240 | 720 | |||||||||
240 | 480 | |||||||||
240 | 240 | |||||||||
取得原価 18,800円 | 18,800 | 18,800 | 18,800 | 18,800 | 18,800 |
この図から金利調整差額は1,200円を60ヶ月で割って当期の調整額は240円と求まります。式にあてはめると、
- 当期の償却額=(20,000円-18,800円)×
- 12ヶ月
- 60ヶ月
- =240円
そして償却原価法の定額法は毎期決算日ごとに240円を加算して額面金額に近づけてゆくということになります。
満期保有目的の有価証券を満期償還した時
ここは試験に出ないと思いますが、とりあえず流れなのでサラッと載せておきます。
何度かの決算を経て、償却原価法によって額面金額に近づけられていた満期保有目的債券は満期日に無事返還されることになります。そのときの仕訳は
- (借方)
- 当座預金
- ×××
- (貸方)
- 満期保有目的債券
- ×××
- 有価証券利息
- ×××
借方は現金勘定か当座預金勘定で、貸方は満期保有目的債券の額面との金額と、前回の利払日から満期日までの利息の金額と償却原価法の償却額を足したものが戻ってくることになります。