約束手形
新しい章に入ります。手形についてです。
約束手形の基本的な説明をします。まずは手形の基礎知識です。
約束手形とは
約束手形とは、手形の作成者である振出人が名宛人に対し、将来の一定の期日に、手形上の金額を支払うことを約束した証券のことです。約束手形は、債務者が債権者に「その支払い2ヶ月間待って!!」と将来支払う約束で用いられる、支払い期間を延ばすという証券です。
業務での使われ方としては、支払い期間を先延ばしすることによって、もし今金庫に現金が無くても、相手が支払日の延期を承諾してくれれば、商品をすぐに仕入れることができるんです、とても便利です。
しかし、支払われる日までに引落し額の現金の入金があることが前提です。
なぜなら、引き落とし日に現金がなければ、不渡り2回で事実上の倒産ですから。振出しすぎに注意です。(((゚Д゚;)))
また、掛けと手形の違いについてですが、両方とも商品代金の後払いという点では同じですが、支払について強制力があるかどうかという点が、掛けとの違いになります。掛代金は踏み倒すことが可能ですが、手形の場合は踏み倒そうとすると事実上の倒産になります。
決済期日が到来した手形は、小切手と同様に、手形交換所を通じて、引き落とし処理をされます。
約束手形の典型的な流れです。ぐるぐる回転しています。
ところでこの図は小切手と同じ図です。じゃあ手形は小切手となにが違うのかというと、支払期日が決まっているというところが小切手との違いになります。法律的にいうと、信用があるかないかという点だけの違いなんですね。
また、約束手形は、略して約手(やくて)と呼ばれたりします。
それではこの動きを簿記ではどのように処理をされていくのかみてみましょう。
振出人と受取人
約束手形は、商品を購入したりして、お金を支払う義務が生じた人(債務者)と、お金を受取る権利がある人(債権者)の二人の間に交わされます。
手形の場合、手形上の債務者を振出人といい、債権者を名宛人といいます。手紙でも宛先(あてさき)といいますしね。手形に名前を書いて宛てるという感じでしょうか。通常手紙でも手形でも名前を書く人は、受取る人です。というわけで受取人は名宛人とよばれたりします。
まとめると、支払う人は、支払人でも債務者でも振出人でもあり、受取る人は、受取人でもあり債権者でもあり名宛人でもあるわけですね^^
言葉の言い回しに気をつけてください。登場人物は二人です。
振出人が手形上の債務者となり、受取人が手形上の債権者になります。
- 振出人
‖
支払人
‖
債務者 - ⇒約束手形の振出し⇒
- 名宛人
‖
受取人
‖
債権者
約束手形の簿記処理
例題です。
- 【例題】
5月15日 四国商店は関東商店へ、商品の仕入代金300,000の支払いのために、約束手形を振出し、関東商店へ渡した。
7月15日 手形の決済期日につき、四国商店は上記手形代金を当座預金口座を通じて関東商店に支払った。
約束手形の典型的な経済取引ですね。支払いを二ヶ月遅らせてもらっています。これはお互いの信用があるから可能なことなんですね。
この例の場合、約束手形で支払いをしようとしている四国商店が振出人で、関東商店が約束手形を受け取る名宛人になります。
考え方のコツとしては、その人の立場になって考えると、仕訳がしやすいです。振出人が支払った時、決済した時、名宛人が受取った時、決済した時というように分けて考えるとわかりやすいと思います。
また、簿記処理をするタイミングとしては、経済活動の記録ですから、振出人が手形を振出した時・決済した時と、名宛人が手形を振出された時・決済した時、4通りそのままです。
- 手形を
- 振出した時
- の
- 振出人の処理
- 手形を
- 振出した時
- の
- 名宛人の処理
- 手形を
- 決済した時
- の
- 振出人の処理
- 手形を
- 決済した時
- の
- 名宛人の処理
というわけで、約束手形の仕訳は、4通り覚えるということになります。
手形を振出した時の簿記処理
・振出人の場合
四国商店は商品代金の支払いがきっかけで、「支払いはちょっとまって」と約束手形で支払いをしようとしています。その債務者である四国商店が手形を振出したばあいの仕訳は、
- (借方)
- 仕入
- 300,000
- (貸方)
- 支払手形
- 300,000
このようにされます。商品の仕入れのために手形を振出したのですから(原因)、借方の勘定科目は仕入になります。
また、手形を振出した時の勘定科目は、支払手形勘定科目(負債)を使用します。なぜ負債なのかというのは、二ヶ月待つということで、四国商店は支払う義務を負っているからですね。債務があるというのは、負債の勘定だったんだと、5勘定の所でやりました。支払手形という負債が増えたということになります。(結果)
・名宛人の場合
今度は関東商店側の仕訳です。関東商店は、支払いを受取る権利がある債権者ですね。「しかたないけど、支払いは少し待ってあげよう」と、商品を売上げた代金を手形で受取ることになります。そのときの仕訳は
- (借方)
- 受取手形
- 300,000
- (貸方)
- 売上
- 300,000
とこのように、手形の処理は、受取手形勘定(資産)を使います。約束手形を振出す側は、支払手形勘定、受取る側は、受取手形勘定で処理をします。
試験問題では約束手形という言葉で出題されますが、簿記では債権者・債務者の場合ごとに支払・受取手形勘定科目というふうに使い分けることになります。約束手形勘定科目というのは使わないんですね。
手形を決済した時の簿記処理
さて、約束手形を振出して二ヶ月が経過し、7月15日に手形の決済日が来て、関東商店が実際に手形を銀行に持ち込むか、取立依頼をするかして、口座から引き落とされるという流れになります。
また支払い、この引き落としという取引は通常、銀行口座を通して行われます。というわけで、手形や小切手を支払った時の相手勘定科目は、決まって当座預金勘定なんですね。
・振出人の場合
振出人は四国商店側のことで、銀行口座に支払い金額を満たす額の現金も入金してあると考えて、無事に決済された時の仕訳です。
- (借方)
- 支払手形
- 300,000
- (貸方)
- 当座預金
- 300,000
支払手形という負債が消えると同時に、当座預金という資産も減るというかたちになります。
そして同時に代金を支払わなければならないという債務も消滅することになります。
・名宛人の場合
今度は関東商店側の仕訳です。
- (借方)
- 当座預金
- 300,000
- (貸方)
- 受取手形
- 300,000
銀行へ商品を売った代金額の約束手形を銀行へ呈示して、当座預金口座へ無事に振り込まれたというかたちになります。
取引の要素としては、名宛人の受取手形という資産が減るかわりに、当座預金という資産が増えるという仕訳になります。
簿記では約束手形の区別をつけるために、約束手形が債務として振出されれば、支払手形勘定科目を使用して、債権として受け取るときは、受取手形勘定科目を使って処理をするということになります。
法律上は、振出しも受取りも同じ約束手形を使用しています。証券としての支払手形というのは存在しないんですね。
なぜこのようにわざわざ分けたのかというと、受取手形勘定科目、支払手形勘定科目と分けることによって、受け取ることができるお金がある、支払わなければいけないお金がある、ということが分けられた状態で帳簿に記帳されているので、あとでみた時にわかりやすいからなんです。