小口現金
小口現金についてです。この章ではこれまで簿記上の現金と当座預金についてお話してきましたが、この章のもう一つ重要なテーマ、小口現金について学習します。
小口現金とは
小口現金とは、日々発生する細かい少額の経費を支払うために、担当者に一定の現金を渡して用意しておく現金をいいます。少額の現金といった意味合いです。
これまで現金は、商品を仕入れたり何か物を購入するときの支払いの手段として、現金を使うということはとても便利でした。しかし、金額が多いと持ち運びが面倒だし、高額の現金を手で持ち運ぶことは強盗に遭う可能性もあり危険だという理由から、当座預金の口座を開設して、これから何かを購入して支払いをするときは、小切手を振り出して当座預金から代金の決済をすべて行うようにしました。というのがここまでのお話です。
しかし、毎日使うような事務用品や会社の備品など少額の品物を購入したとして、その支払いのためにいちいち小切手を振り出すというのは、なかなか不便です。
そこで現金を当座預金から独立させて、日々の支払いのために別に用意することにしました。これが小口現金になります。
小口現金といっても最終的に現金で支払うということには変わりがなく、支払い元が当座預金から小口現金担当者に変わっただけで、何か新しいことが始まったわけでもなく、そんなに難しい話でもありません。
現金と小口現金の違いは、管理されているか、されていないかの違いで、どちらも同じ現金あって変わりはない、ということなんですね。
小口現金制度とは
小口現金制度は、コピー用紙や、お茶代、交通費といった普段の少額の経費を支払うために、小口現金を管理する担当者を決め、少額の支払いの必要があったとき、そこから現金で支払うようにする制度をいいます。
小口現金制度は一般に、定額資金前渡制度(ていがくしきんまえわたしせいど)(インプレスト・システム)が用いられます。
では小口現金制度がどのような仕組みになっているのか流れを見てみましょう。
まず登場人物ですが、2人登場します。1人は会計担当者または会計係または経理係、そしてもう1人は小口現金の支払担当者、小口係または用度係(ようど)または小払係と色々名称はありますが、この2人です。
ちなみに小口係は経理部の人とは違う、別の部署の人が担当になることが多いそうです。
次に、定額資金前渡制度で小口現金が支払われるところを見てみます。
定額資金前渡制度(インプレスト・システム)
①前渡時
会計担当者 | 小口係 | 従業員 |
会計担当者は一定期間(1週間または1ヵ月)毎に小切手を振り出して小口係に渡し、小口係は小切手を銀行に持って行き換金します。これで小口現金が前渡しされました。
②支払時
会計担当者 | 小口係 | 従業員 |
小口係は日々発生する交通費などいろいろな支払いを行います。
③支払報告時
会計担当者 | 小口係 | 従業員 |
一定期間(1週間または1ヵ月)終了後、小口係は会計担当者にこれまでの支払いの報告をします。また、会計担当者は仕訳をして総勘定元帳に記帳します。
④補給時
会計担当者 | 小口係 | 従業員 |
会計担当者は小口係が支払った支出額と同額の小切手を振り出し、それを小口係に渡します。これで一定期間使った分の小口現金が補給されました。
定額資金前渡制度(インプレスト・システム)の流れはこんな感じですね。最初に決まった額を渡しておいて減った分を補給する。ただそれだけなんですね。
また、③支払報告時と④補給時を同時に行ったりもするときもあるので覚えておいてください。
では実際に例題を解いてみましょう。
①小口現金を前渡しした時
- 【例題】
定額資金前渡制度(インプレスト・システム)により小口現金30,000円の小切手を振り出し、小口係に資金を前渡しした。
- (借方)
- 小口現金
- 30,000
- (貸方)
- 当座預金
- 30,000
小切手を振り出したので仕訳をすることになります。小口現金勘定は資産なので、資産勘定から資産勘定へ別の勘定科目へ移ったということになります。
②小口現金を支払った時
- 【例題】
小口係は電車代160円、文具代200円を小口現金から支払った。
- 仕訳なし
仕訳はしないんですね。いま仕訳をしなければならない人は会計担当者なので、小口係が現金の支払いをしても仕訳はしません。もちろん、小口係の側では支出があったら、小口現金出納帳にいくら使ったかを記録しています。
③小口係から報告があった時
- 【例題】
会計担当者は小口係から次のような報告を受けた。
電車代 160円 文具代 200円
- (借方)
- 旅費交通費
- 160
- (貸方)
- 小口現金
- 360
- 消耗品費
- 200
一定期間のあいだ、小口係が②の支払い時に支払っていた費用の分の報告を受けたので、まとめて仕訳をすることになります。
あと、そのほかに例題以外で小口現金でよく登場する費用と勘定科目です。
電車代、バス代 | 旅費交通費 |
切手代、ハガキ代、電話代 | 通信費 |
コピー用紙、ボールペン代 | 消耗品費 |
電気代、ガス代、水道代 | 水道光熱費 |
お茶菓子代、新聞代、その他に該当しない支払い | 雑費 |
④小口現金を補給した時
- 【例題】
会計担当者は小口係に小切手360円を振り出した。
- (借方)
- 小口現金
- 360
- (貸方)
- 当座預金
- 360
小口係が管理していたお金が一定期間のあいだ360円減少したため補給するということですね。小切手を振り出すので、貸方が当座預金勘定になります。
そして一定期間の取引が一巡したので、ここで小口現金の勘定口座を見て確認してみましょう。
当座預金 | 30,000 | 旅費交通費 | 160 | ||
当座預金 | 360 | 消耗品費 | 200 |
30,000円+360円-160円-200円=30,000円(借方)と定額資金前渡制度なので30,000円が小口現金としてあるぞ、ということになります。
支払報告と補給が同時のとき
簿記3級の試験の問題文中に「ただちに小口現金を補給した」となっている場合があります。このときは③支払報告時と④補給時を同時に行ったと考え、一つの仕訳にまとめて処理をします。
- 【例題】
会計担当者は小口係から次のような報告を受け、ただちに小口係に小切手を振り出し小口現金を補給した。
電車代 160円 文具代 200円
- (借方)
- 旅費交通費
- 160
- (貸方)
- 当座預金
- 360
- 消耗品費
- 200
この仕訳は、③小口係から報告があった時の仕訳と、④小口現金を補給した時の仕訳を合算して小口現金勘定を相殺したものと考えればわかりやすいと思います。
小口現金はパターンで解けると思います。以上、定額資金前渡制度による小口現金の処理でした。